第5話 排卵日の特定

 人工受精が始まった。まず排卵日を特定しないといけないので、生理が始まって2週間後に病院でホルモン値を検査する。ホルモン値は血液検査で行う。当然生理から2週間後ではまだ排卵日まで同じく2週間ほどあるわけで、その時点では到底排卵日を特定はできない。さらに1週間後にもう一度くるようにいわれる。そして1週間後、まだダメ。もう3日~5日後にくるようにいわれ、ようやく排卵日を特定できるようになるが、場合によってはもう1回さらに2日後に血液検査が必要になる場合もある。つまりは排卵日までに血液検査を3回は行うこととなって血液検査の腕は左と右を交互にしても、どちらかの腕には2カ所の穴があく。その次が人工授精の日となり、合計で4回病院に通うことになる。
 あたり前だけれど、病院というのは多くは日曜日がお休み。土曜日は午前中のみ病院はあいているが、土曜日はとても混雑してなかなか予約がとれない。最初の予約はうまく土曜日に合わすことができたとしても、その次からは自分で検査する日を選べなくなるため、平日に2回か3回は病院
に通わないといけない。
 うちの会社は土日が休みの週休2日制。有給休暇は午前中のみや午後のみの半日での取得ができるので、それを大いに活用して休みはとるのだけれど、正直毎月毎月4回休みをとるのは厳しい。4回でも半休だと2日間休んだことにしかならないので、日数だけでみると半分ともいえるが、毎月2日休んでしまうと、さすがに付与されている年間の有給休暇の日数を超えてしまう。
 そこで考える。どうにかして病院に通う回数を減らすことはできないか。まず1回目の血液検査は完全に無駄な気がする。さすがに周期2週間で排卵はしない。一番いいのは、排卵日の2日前に血液検査を行い、一発で排卵日を決めることができれば、病院に行くのは2回で済む。2回は最低回数かと思うので、それより病院に通う回数を減らすことはできないが、月2回で済めば有給休暇は年間12日の取得となり、付与日数を超えることもない。幸い私は生理周期がほぼ28日ととても安定しているので、計算しやすかったはずだけれど、それでも最初は今回周期だけ突然排卵日が早くて間に合わなかったらどうしようと思ってしまい、少し余裕を見て、排卵日と思われる日の4日前くらいにいくと、必ずもう1回血液検査となり、病院通いが3回となってしまっていた。
 病院に通うのを2回にできるということは、血液検査も1回で済む。自分の体に針を刺される回数は少ないに越したことはない。血液検査のとき、刺す針を見るか見ないか、あなたはどちら?なんていうが、私は針が刺されるところをいつもじっと見ているタイプ。変なところに針を刺されないか、ちゃんと血が出てきているのか、自分の目できちんと見た方が安心ではなかろうか。
 私は大学病院に通っていたので、血液検査をしてくれる人は毎回のように違う人で、当然上手な人とそうでない人がいる。一番ひどかったのは、刺したところから血が出てこず、刺した針をそのままグリグリと動かされ、挙句に抜かれて刺しなおされるというひどい目にあったこともある。抜かれたときはさすがに「刺しなおすんですか?」と発言したところ、ベテランっぽい男の人に替わられたこともあった。血液検査で失敗しないためには、自分で腕のどこからなら血がよく出るかを知っておくのが良いと思う。刺しなおしをされたときは、いつも血をとっているところと全く別のところに針がさされていた。刺した人の腕というより、刺した場所が悪かったのだと思う。
 血液検査の上手い人とそうでない人の見分け方も習得した。針を刺すまでの時間がいかに短く、段取りがテキパキしているかに上手さは比例する。上手な人は針を刺すところを2・3回指で触るだけで、すぐに針を刺す準備をする。そうでない人は、腕をさすってみたり、何度も何度も針を刺
ところを触ったりする。針を刺すまでの時間の長い人にあたるとさすがにちょっと身構えた。
 病院に通うのを2回にできるまでには何ヶ月かの試行錯誤というか、慣れが必要だった。よし!病院通いのプロになった! 排卵日の2日前にドンピシャで病院に行き、1回の血液検査で即排卵日である人工受精の日を特定できるレベルに見事到達したぞ!と思ったときには、すでに人工受精を始めて1年近くが経過しており、そして残念ながら私に妊娠の兆しは全く見えなかった。
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