第2話 意外といる。

 卵巣嚢腫と診断され、その日は会社を休んだものの、ずっと休んでもいられないわけで翌日には出勤することにした。いつものエレベーターにのり、7階まであがっていく。エレベーターは混んでいるが、もう貧血も治っているしで、特に気分が悪くなることもなくいつも通り自分の席についた。結局1日休んだだけなので、机の上に目立った書類はない。
 社内報が置いてあった。一応ざっと目を通して、6ページほどの社内報はものの10分ほどでゴミ箱の中へ。各部署でどんな仕事をしたかの紹介は見出しだけ見れば十分だし、その他は社員の世間話や、結婚したとか赤ちゃんが生まれたとかの情報で、正直知らなくてもよい。唯一社長のコメントが出たときだけは一応読むが、それは1ページ程度で読むのに時間がかかるものでもない。正直すごく面白いわけでもなく、役に立つ情報が入っているでもないと私は感じている。この会社の社員として、内容を全然知らないというのもまずいという程度。作っている人には失礼かなとも思うけど、もっとしっかり読んでもらおうと思うのであれば「うっわ、面白い! すごい楽しー!」と読者が思えるものを作ってもらわないと。単に私が好みが偏っていてわがままというだけという気がしなくもないが、私が「うっわ、面白い! すごい楽しー!」と思うということは、今の社内報よりはちょっとは面白くなっているんじゃないだろうか。
 常に上を目指すのは当然。現状維持を望むと落ちる、と言われるように、是非みんなで成長しましょう。
 次にパソコンを立ち上げてメールをチェック。10件ほど来ていた。返事を書き始めて業務開始。あっという間にお昼休みを迎える。
 いつも一緒にランチしているのは5人だが、この日はあいにく休みや出張のメンバーが多く、同い年の佐川さんと2人でのランチだった。
「もう体調はいいの?」と佐川さんに聞かれる。
「うん。卵巣嚢腫だった。」と私。
「え? 卵巣嚢腫? そうなんだ。私もなったよ。」
「うそ。佐川さんも? 私、右の卵巣が4.5センチって言われて。」
「私は左だった。6センチ。」
「6センチってすごい痛かったんじゃない? 手術したの?」
「しない、しない。手術なんか怖いよ。痛み止め飲んで耐えてたけど、つらくなってきたからホルモン療法した。ホルモン療法だと生理をとめるから閉経後と同じ状況で、更年期みたいになって変な汗かくしでちょっとしんどかったけど、なんとか収まったよ。今は大丈夫。」
 1人同じ病気の人を見つけてしまった。そもそも卵巣嚢腫って隠さないといけない病気なのだろうか。うつる病気ではないし、特に恥ずかしくない気もするけど、子供ができにくい体だと思われるっていうことで隠すものなのかな? なんのためらいもなく話した私は能天気なのだろうか。
 ただ結果的に佐川さんに話したおかげで、同じ病気の人を1人見つけられた。
 そしてその後、凝りもせずに同じ部署の先輩の加藤さんに話したところ、「私も! しかも去年再発したよ。」
 再発! すごい先輩! 生理が続く限り再発する可能性が高い病気だとは聞いたものの、こんなに身近にいるとは!
「再発したときはね。ショックだったよ。ホルモン療法してね。のぼせとか頭痛がひどくて、半年間そういうのに耐えたのに、また!?って感じ。で、2回目はもう手術したよ。」
 そうだろうなあ。先輩のつらさがもはや他人事ではなく、まだ卵巣嚢腫と診断されて2日しか経っていないのに、すでに次のステージともいえる再発が心配になってしまった。
 出てきたのは卵巣嚢腫だけではない。広報部にいた四谷さんは子宮筋腫になって手術をしたと聞いた。なんでもこぶし大の筋腫ができて、手術時にはかなり出血もあり、少し危ない状況にもなりかけたそう。
 そしてその後も3人に話すと1人がそう、くらいの割合じゃないかというぐらい、出てくる出てくる婦人病の経験者が。こんなに身近に大勢いるのに今まで全然知らなかった自分の無頓着さはむしろ幸せだと感じたが、これも社内報をちゃんと読まない私のまわりへの関心のなさだと実感もした。
 よく自分と他人を比べる人がいる。私としては比べてどうするのかな?と思う。その比べた人より自分が優れていたからといって、そういうのを「井の中の蛙。大海を知らず。」というと思う。そんな少人数より自分が優れていてもうれしくもなんともない。大切なのは相対評価でなく絶対評価で、比べるべき相手は自分以外の何者でもないはず。だから私は他人に興味がないと今まで思っていたが、比べるかどうかと興味がないは実際ちょっと違うかと。少なくとも、もう少し社内報に興味を持つ人間だったとしたら、婦人病の経験者がこんなに身近に大勢いることをもう少し早くに知っていたかもしれない。人間助け合わないと生きていけないのだから、少なくとも助け合っていると思う人のことは興味を持って当然かと思った。そして同じ病気の人が大勢いることはとても心強く思えた。
 ところでなぜ私は卵巣嚢腫になったのだろうか。14歳で初潮を迎えて以来、生理は28日周期でとても規則的で、出血量も多くなく、腹痛もほとんどなく、自分では自分をとても健康だと思っていた。思い当たるとすれば、ここ1年ほど仕事がとても忙しく、毎日夜の9時10時、ときには11時まで働いていて、かなり体にムチうっていた。そのせい? 婦人病はストレスが原因となることが多いとどっかで読んだような気がするが、私の場合はストレスより過労か? 仕事のせい?
 やめよう。原因よりも今はどうやって治すか、これからどうやっていくか、それが問題だと思った。
 
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